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「現場経験がないことはデメリットにはなりません。現場経験がないから気づくことも多いんです。」

2019.10.112019.10.11
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★今村光希さん(51歳/大阪市・金本運輸株式会社本社統括部長)

明治44年に創業以来、今年でまる108年。澁澤倉庫の専属下請けとして、大阪府下4事業所を展開する物流業界の超老舗企業です。現在のスタッフ数は、社員・パート合わせて120人以上。現場スタッフの声に耳を傾けつつ、さらなる良好なスタッフ間コミュニケーションをブラッシュアップしていくのが、本社統括部長としての仕事です。安全第一という会社スローガンに寄り添うべく、すべては人が基本。徹底した現場主義でありながら、実は現場経験ゼロという意外なプロフィールの持ち主でした。

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◆今求められる人材像

ギフト製品の詰め合わせ作業を中心に、入出庫作業・検品やピッキング作業を行っているのが、大阪市城東区の城東事業所。物流が集中する大阪市内の中心部がゆえに作業に携わるスタッフは多く、女性のパートスタッフも多数ラインに携わっています。

安全のために無人化したフロアでは、若手のオペレーターがフォークリフトを自在に操り、明るい照明の下では女性のパートスタッフ同士が協力し合いながら、テキパキと梱包作業にあたっています。何より、時々笑顔を交えながらスタッフがのびのび仕事をしている姿が印象的で、これまで抱いていた倉庫の仕事のイメージとはまったく違いました。

本社所属の統括部長ではありますが、週に3~4回は各事業所を訪問。労務管理の立場で、あるいは現場スタッフの目線で職場環境を巡回するのが主な仕事。面接など採用試験の窓口担当でもあります。「どの事業所でも長期のパートスタッフが安定していて、お中元やお歳暮シーズンの繁忙期でもリピーターの派遣スタッフが来てくださいますよ」。スタッフの定着率が高くリピーターが多いのは、職場の居心地が他社よりもいい証拠です。

コミュニケーションがとれる人間であること。これが求められる人材像。「でなければいい仕事はできないと思います」。黙々と作業するのではなく、アットホームな雰囲気の中でチームワークが発揮されれば、結果的に居心地のいい職場で作業効率も上がります。

◆物腰が柔らかい特異なキャラクター

倉庫会社の統括部長というからには、さぞかし現場で叩き上げられてきた色浅黒くがっちり体型のキャラかと思いきや、会ってみるとまったく違いました。細身の白いボタンダウンシャツとスーツという出で立ち。51歳にしてはおしゃれ感がありありと。髪も長めで、あの小室哲哉に少し似ています。「そうですかね~、自分ではそんなに変わってないと思うんですが(笑)」。柔らかい物腰も印象的で、この人なら上の意向を下に伝えていくのもきっと上手なのだろうなと確信しました。

福岡県出身。高校卒業後、地元で飲食店を1年間だけ経営。それを元手に上阪し、経理関係の専門学校に通い税理士事務所に就職。その後、別の会社で最終面接まで進んだところで、「面接で会う予定の役員のかたが留守されることになりまして。面接まで遊んでいるのももったいないし、つなぎのつもりで面接を受けて採用してもらったのが、今の会社だったんです」。

就いた仕事は、これまでの経験を生かした経理関係。派遣からのスタートでしたが、会社の根幹に関わる数字に接するようになり、つなぎどころではなくなりました。「これは面白くなってきたな、と(笑)」。単に数字を扱うだけでなく、そこからみえてくる経営方針や会社のビジョンに強く興味がわきました。

◆周囲の雑音が評価に変わる時

入社後わずか2カ月で派遣から社員へ。経理などのデスクワーク以外に、現場に関連した仕事も任せられました。事業所を回って現場というものをしっかり見てこい、と。現場での経験は?「まったくありません(笑)。だからといってやりづらいなと思うこともありませんでした」。あまり考え込まないタイプ。クールで飄々とした一面が功を奏したのでしょう、意外にも現場巡回という仕事が向いていたのかも知れません。

現場回りを始めたころ、城東事業所で初顔合わせをしたのが現・総監督の正木健一さんでした。「最初は、なんやこいつチャラチャラしやがって!と、ぶっちゃけ思いましたよ(笑)。茶髪でロンゲやったし、目見たらカラコン入っとるし。来るたびに色変わっとるし(笑)」と、20数年前のエピソードを暴露。正木さんは上背があり、力もありそうな好対照キャラ。とはいえ年齢も近く、今ではお互いをリスペクトしている存在であることはすぐにわかりました。

ロンゲであろうがカラコンであろうが、動じることはなかった小室哲哉。今も当時の片鱗を少しうかがわせていますが、「あちこちで噂はされていたんでしょうが、直接耳に入ってこなかったんで(笑)」。風貌はともあれ、事業所のスタッフをとりまとめる総監督と連携して、本社と現場との橋渡しに大きく貢献。総監督はもちろん、現場からの信頼も厚くなりました。

◆現場とうまくやっていけた「客観的視線」

まったく現場体験のなかった人間が、自身の努力によって現場を一番よく知る人間に。「総監督の力も借りながら現場のシステムがよくわかるようになり、自分にできることはほかにもっとないか、意欲的になりました」。本来なら経理のスペシャリストを目指すはずでしたが、今では人材のスペシャリストとして社内人事になくてはならない存在。ある意味個性的なキャラも、すっかり社内浸透。「今の年でロンゲとカラコンなんかもうやらんでしょ(笑)」(正木総監督)。

ほかの仕事をやりたいと思ったことは?「経理関係の誘いはありましたが、今以上の魅力を感じなかったんです」。仕事も面白いし、居心地もよかったからでしょうね。「それは間違いありません。現場のスタッフも、自分と同じような気持ちでいてもらえるようこれかもら努力していかなければ」。逆にいえば、現場経験がなかったからこそ気づくことが多かったことでしょうし、別にデメリットもさほど感じなかったのでしょう。物事を客観的にみるスキルが備わってさえいれば、どんな仕事でもできるのだと。

今視野にあるのは、後継者の育成。そして優れた人材の確保。いずれにしても、働きやすい職場環境は整えておかなければなりません。23年前、つなぎで入ったつもりが多くの人を動かすまでにコミットされたワークスタイルは不変です。もちろん、物事に動じないクールなおしゃれなキャラも。

(取材・構成/池田厚司)