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「どっかで変わらなあかん。それがその時やったんやと思います」

2022.06.232022.06.23

シンカ設計/二級建築士 代表 中上慎也さん

国道沿いを外れればまだのどかな風景が残る堺市美原区。新設された区役所のすぐそば、中上設計事務所の看板が掲げられた近代的なビルにシンカ設計の事務所が有ります。

 

チャイムを鳴らすと、出てきて下さったのは中上さん本人。しっかりしたガタイ、その体から放たれる重低音ボイス。若い頃はさぞやんちゃだったのでは。と初対面ながら失礼な想像をしていたら、その心の声が聞こえたか、逆にビリケンさんそっくりの愛らしいはにかんだ笑顔を見せてくれました。

 

☆           

 

 

 

◆親の仕事は継がない。そう決めて歩み出した人生。

 

小さな頃から父親の設計士としての姿を見ながら大きくなった中上さん。親の仕事は継がないと公言、高校生時代から現場でアルバイトしていたこともあり建設会社に就職。19歳で結婚し、子供も生まれ日々仕事に精を出していましたが、なんとその建設会社が倒産。

 

家族のためには次の就職先を探さなくては、と奔走します。「学歴もないし、現場は少しの知識と体力だけはあったんで、なんとか現場仕事で乗り切ろうって思ってた」そんな時に「ちょっと手伝いに来い」と、父親に声をかけられます。

 

 

現場仕事はしていても、設計のことはまったく素人。何もできないと説明したのですが、「測量の手伝いくらいできるやろ」と言われ、何もわからないまま手伝いに入ることになります。建設と設計、近い業種のような気がしますが、中上さんの設計イメージはまた違ったようで。「細かいことが嫌いやったんで、設計向いてないと思ってた。陰気臭いイメージもあって(笑)」とはいえ手伝うといっても仕事は仕事。あれこれ言われるがまま仕事をこなしていきます。

 

 

 

◆手応えを感じた時が変化の時。

 

初めは次の仕事までの繋ぎとして設計の仕事を手伝おうと考えていた中上さん、ちょうど仕事を覚えだした頃、描いた図面を見せたお客様がすごく喜んでくれたことに感動を覚えます。「見えないものを想像で描くって、自分はできないって思ってたんです」出来ないと思っていたことが、出来るようになった実感を得た瞬間です。

 

そこからの行動力と集中力が人並み外れています。

「建築設計って、計算が多いし、建築基準法とか読むのに国語力も要るでしょ。恥ずかしい話、勉強を全然やってこなかったんで、基礎学力がないからあかんって思って」。

 

早稲田大学建築学部を卒業した従兄に勉強を教えてほしいと直談判し、毎週出される算数・数学・国語の宿題を小学生ドリルから再スタート、二級建築士の取得を目指し昼間は仕事に打ち込み、仕事が終われば小学生の算数から始まる資格取得の猛勉強。ドリルという単語だけでいや〜な気分になりますが、正直面倒な気持ちにならなかったのかと伺うと、「いや、ならなかったですね。ずっと自分に甘えてたから。嫌なことからは逃る、そのくせ悪さはする。どっかで変わらなあかん思ってた」。

 

 

だんじりの青年団メンバーでいつもなら行事や寄り合いには参加していましたが、二級建築士を取ると決めてからは同級生やメンバーに説明し、イベントや遊びも全部断って休日や夜は勉強漬けの毎日。資格が取れるまでは業務をこなしながら自分の労力すべてをかけて資格取得の勉強を続けた甲斐あって、年に一度の国家試験受験で一発合格。プライドを捨てて、友人たちにも理解してもらいやり遂げる意思の強さには感服です。

 

「自分はそこまでやらな変われないって思ったんで。一年で遊びに出たの2日だけでした(笑)」。

 

 

◆父親の下で働くということ。

 

 

基礎学力をつけ設計の知識が出来上がっていくと仕事にも反映できるようになり、設計の“おもしろみ”に気付いていきます。行政との協議にも苦手意識なく対応できるようになり、中上設計事務所での仕事の幅に広がりが見える頃には自身の意見が生まれるようになりました。父親である社長に提案する機会も増えていったのですが、当時は頭ごなしに却下されるばかり。しかも給料は一般社員より厳しい設定。

 

じわじわと中上さん自身に仕事の依頼が入りだした頃でもあり、中上建築事務所の仕事が終わった夕方から自身の営業に回るようになります。「息子さんって言われる事にコンプレックスも持ってたんですね。周りは自分で起業したり自営業でやってる友達ばっかりだったのに、僕は何をしても、どれだけ成果あげても、社長のおかげやろって言われてしまう」。

 

 

◆同じ立場に立ってこその思い。

 

 

意見の相違もあり、5年前にシンカ設計として独立。中上設計事務所時代に培った知識と経験を生かし、住宅だけでなく店舗の設計も行っておられます。

その中でも得意分野と仰ったのが確認申請業務と、困難な案件。「他で断られたって電話貰ったらめっちゃ嬉しいですね。一度お話させてください。って返事してしまう(笑)」難しく他がサジを投げた案件に楽しみをしっかり見つけていらっしゃる。

ご自分だけでやってみられた実感をお伺いすると、「自分で始めたら息子って括りは解けたんですけど、別の大変さが(笑)今も手伝いをしてはいますが、父親も仕事を認めてくれてるのか、お互い衝突することが無くなって揉めることがなくなりましたね」。

 

実は中上さんの家系、“美原町の建築といえば中上”と言われるほどの建築家系。「おじいちゃんは工務店。ひい爺ちゃんは土木屋さん。戦時中には役所の仕事でアーチ型の石橋施工とかもしてたみたいです。中上設計も創業40年以上ですね」。

取材にお邪魔したビルはお父様が一代で建てられたというお話を伺いしていると、「父親には勝たれへん」の一言が。「昔は僕も生意気やったから色々意見してたんですけど、創業者の大変さ、偉大さがこの年になってよ〜く分かりました」と。偉大さに気づいているからこその『息子』という言葉がコンプレックスだったのかもしれません。

 

 

 

◆楽しむを見つけ続ける中上さんならではの「これから」。

 

今後は不動産業務や建築のコンサルティング業務も進めていきたいと語る中上さん。

将来的には中上設計事務所を継ぐことも考えているそうですが、今は仕事を全力で楽しむことが一番とおっしゃいます。「お客さんに喜んでもらえて、自分が満足できる設計ができるように、しんどいことや大変なことも楽しむのが仕事やと」お仕事を楽しむご自分の将来をイメージしながらお話してくださったのか、ビリケンさんのようなニッコリ笑顔で答えてくれました。

 

中上さんの持つ意思の強さと行動力があれば、楽しむことを忘れず思いを成し遂げていかれるのでは。これからのご活躍も楽しみにしております!

 

 

 

(取材・構成/TORQUE T.Teratani)

 

 

会社概要

シンカ設計

本社所在地:大阪府堺市美原区黒山13-12

TEL:090-9094-7653