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SNSが普及し誰もが発信できる時代となり、今やつぶやきや思いを言葉にすることが当たり前の世の中。世界中で言葉の威力を実感するニュースがあふれ返り、言葉の意味がより重くも軽くも扱われてしまう昨今。言葉を専門に扱う職業ライターとして13年の経歴を持つ内川美彩さんにお話をお伺いしました。
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取材場所にお伺いするとまずはびっくり。まんまるのお顔とどんぐりまなこがかわいい赤ちゃんが!お子さん同伴の取材は初めてです。
初めてのお子さんですか?とお伺いしたら、「いえいえ。上が8歳、4歳の女の子。この子は0歳の男の子です。」と、二度目のびっくり。ライター業という仕事をしながらお子さんを3人も育ててらっしゃるパワー溢れる笑顔が眩しいです。
◆技術を身につけられるから、頑張れるならおいで。
ライターという職業を最初から目指しておられたんでしょうか。
「書くことと音楽が好きだったので音楽雑誌の編集者を目指していたんですが、募集自体がなかったり、四大卒でないとだめだったり、経験者優遇だったり、なかなか狭き門で。」
内川さんが音楽系の専門学校在学中、アルバイトをしていたライターの方が紹介してくれたのが、福岡のライター集団と自ら銘打っておられる、株式会社チカラでした。
社長に、『ライターさんって、名刺にライターってかけば、特に資格のある仕事でもないから、なろうと思えば誰でもなれるけど、本当に長く続けられる人は限られてる。長く続けられるライターの技術を身に付けられるから、頑張れるならおいで』と言われて。当時はアシスタントのような弟子のような形で雇って頂きました。」
言葉の扱いはとても繊細で難解でありながら、確かに資格は必要ない。ある意味実力だけが後々ものを言う世界。アシスタントを始めた頃は3年は頑張ろう、やってみようと考えておられたという内川さん、アポ取りから取材、ライティングまで県内外を走り回ります。
「書く技術やノウハウを教えてもらいながら、いつの間にか社員になり、気づいたら13年働いてたって感じなんです。」
いつの間にか社員になってたとおっしゃっておられますが、きっと社長さんが、内川さんの仕事を認めてくださったのでは。
「いろんな人が発信できる時代になっているので、ライター業が軽視されがちな仕事になってきている危機感があるんですけど、そうじゃないんだよって事を伝えるためにも、自分たちはきちんとした仕事をしていこうと。日々みんなで頑張ってます。」
◆言葉のチカラで愛と平和を
現在は情報誌の取材や雑誌の仕事をはじめ、書籍の執筆、企業のブランディングなど言葉を軸にしたさまざまな仕事を手がけている株式会社チカラ。近年は言葉のチカラをより広く多くの人に使ってもらうための文章の学校にも力を入れています。
「うちの会社のブランドコンセプトが『言葉のチカラで愛と平和を』なんです。ちょっとぶっ飛んでる感じがするかもしれないんですけど、言葉って、コミュニケーションツールの一番大事なもので、正しく扱えるようになれば世界は平和になるんじゃないかと考えていて。」
ぶっ飛んでいるどころか、平和への近道を見つけたようなパワーワード。
「言葉のちょっとした言い間違いで争いが起きたりするので、一人でも多くの人が正しい文章を使えるようになれば、ちょっとでも平和に近づけるようになるんじゃないかって、私たちは信じています。文章の学校を長く続けているのもそんな思いからです。」
そもそもは社長が内川さんに書く事をマンツーマンで教えることから始まったという文章の学校。
現在はオンラインでも開校し、伝える力を身につける手段として幅広い職種や年代層に人気を博しています。
◆共通言語のある職場
タウン誌、ブランドコンセプト、言葉の学校やオウンドメディアなど、多岐にわたるライティングを担当してこられた内川さん、ライターとして大事にされてる事が。
「<私を消す>ですね。私、今もちょっとあると思うんですけど、自分の考えや意見をどうしてもいっぱい入れちゃおうとするところがあって。それって結局、自分が自分が、って文章になっちゃうから、ライターの存在を消して対象物の魅力を伝えて読者の心を動かす為の文章を書こうと常に意識しています。会話の中でもみんな合言葉のように私を消すって言い続けてきています。」
文章の技術がそれだけあるにもかかわらず、フリーという選択はしてこられなかった内川さん、13年間会社で居続けられた理由を伺うと。
「同じ志を持って働いている人たちが会社にいるからだと思います。大切にする部分が同じで、私を消すのように共通言語があるから働きやすい。他の会社だと、そんなこだわりいいから早く終わらせてくれる?って言われそう(笑)」
◆コミュニケーションは無くならない
日々福岡の会社に通勤されているかのような話ぶりながら、実は3年前に家族の転勤で大阪に引っ越し。
「主人の転勤を会社に相談したら、ライターの仕事はパソコンがあればどこでもできるし、なんとかなるんじゃないか、って。いってらっしゃい、って言ってくれて。」
株式会社チカラではもともと東京や大阪の仕事を受注していたこともあり、転勤の話が出た際には、そこまで大きな問題にはならなかったそう。3年前といえばリモートワークが一般的になる少し前、先進的な動きができたのは、ライターという職業だけでなく会社の気風もあったのでは。
「今でこそリモートが当たり前ですけど、始めた頃は普通じゃなかったから勤怠管理どうするんだ?あいつちゃんと働いてるのか?!って思われたらどうしようって勝手に不安を感じていたんですけど、ありがたいことに自由に働かせて貰えてます。」
現在は、基本的には自宅でお子さんの育児をしながらライティングの仕事をされる日々。
転居を機に、書籍を担当し、長文を書くようになりました。。
夫婦で仕事のスケジュールをうまく管理しないと夫婦共倒れになってしまうと、「無駄な争いはやめよう。」と話し合い、助け合いながら日々をやりくりしているそう。
お子さんが産まれてから、何か変わったと思われることはありますか?
「打たれ強くなったというか、マルチタスクになった気がしますね。必要とされる場所が増えたから精神的に強くなったというのも大きいかな。」
お子さんはお母さんの仕事をどう感じておられるんでしょうか。
「福岡の事務所に連れていったこともあるし、今は自宅で仕事をしているので、いろんな働き方があるってわかってくれたらいいなと思っています。ママは本を書いてる、っていうのも理解してくれているようです。」
株式会社チカラでは、NPO法人と一緒に国語や作文が苦手な子に書く楽しさを伝えるキッズプレスというメディアも手がけています。
参加した子供達の中には書くのが好きになる子も多いそう。
「学校ではこう書きなさい、こういう書き方はダメ、って教えることが多いと思うのですが、キッズプレスでは何を書いても褒めるというのを大事にしています。
ただ、我が子になるとどうしても、こうやって欲しいが出てしまう。これも私を消す、なんだと思って日々葛藤しています。全然できてないですけどね(笑)」
「子供たちには書く楽しさや言葉を使う大切さ、言葉をうまく使えば人生が変わるってことを少しでも伝えていけたらいいなと思っています。将来私のように言葉を仕事にしなくても、生きていく上で言葉のコミュニケーションは無くならないでしょうから。」
誰もが使う「言葉」というものを改めて考え直した今回、口にする一言ひとことをより大切にしていきたいと思う取材陣でした。
(取材・構成/TORQUE T.Teratani)
会社概要
株式会社チカラ
本社所在地:福岡県福岡市中央区大名2-2-1 MIKIビル401(402、8階)
TEL:092-737-5725
https://chikara.in/