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「体験してわかること。体験しないとわからないこと。」

2018.12.112018.12.11
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★和食レストラン「かごの屋」深江橋店店長・采野 華さん(24歳)

西日本や東日本を中心に計98店舗。アジア諸国など海外11店舗を加えると、計100店舗以上。平成5年、兵庫県宝塚市に1号店をオープン。昨年は、記念すべき25年目を迎えました。手軽に和食を楽しむ老若男女の来店客は、いわば「ファミレスの卒業生」。そんな人たちを愛し、スタッフを愛し、究極のホスピタリティーを追求してやまない貴重な最年少女性店長は、「かごの屋愛は誰にも負けません!」。そんな想いは、取材を通じてビシビシ伝ってきました。

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◆今時珍しい接客好き「和食ガール」

自他とも認める、気丈な和食ガール。しかも負けず嫌い。中学生の時、たまたま家族で有名和食店で食事した際、来店客に対し丁寧にあいさつする女将の和服姿が、強烈に印象に残りました。素敵!かっこいい!和服を着たい!「もうこれしかないと思ったんです」。実家が中華料理店を営んでいたこともあり、接客がしたい気持ちを止めることはできませんでした。

こんな料理をつくりたい、ではなく接客というワークスタイルに目覚めた女子中学生。卒業後は、アルバイトスタッフとして自宅近くのかごの屋へ。「採用されてうれしかったです。もしかしたら、高等な接客をしたかったから、と面接で熱く語ったのがよかったのかも知れません(笑)」。夢を現実に引き寄せるためには、衝撃的な出会いと突拍子もない行動力がモノをいう典型的な例でもありました。

高校生活と並行して、青春時代をバイトに打ち込む日々。部活もアイドルも興味なし。期待には120%応えたいと、とことん仕事を覚えるよう努めました。元々記憶力のいいタイプで、「一度来店されたお客様の顔を忘れることはほとんどありませんでした」。来店客にほめてもらったり名前を覚えてもらうなどして、コミュニケーション能力も高まりました。

◆他流試合でわかった自店の魅力

でも何かが違う。そう思い始めたのは、1年以上経ったころ。面接時に熱く語った高等な接客とは、もっと別のところにあるのではないか、と。バイトそのものは楽しかったものの、「着たかった和服を店で着ることはありませんでしたし(笑)」。

悩みに悩み抜いた末、何と競合他店と掛け持ちバイトの道を選ぶことに。以前から憧れていた他店では、和服を着たスタッフが今よりワンランク上の接客に従事していたことに着目。かくして、店に了承してもらった上で他流試合を挑むことになったのです。

昼間は他店で夜は自店。他店では料理の出し方や灰皿の置きかた、立った際の手の添えかたなど、マナーを中心とした伝統的なマニュアルは完璧でした。着物を一人で着られるようにもなりました。格式も申し分なく、教わることは山ほどありました。「でもお店の雰囲気がまったく違ったんです」。またもや悩める10代。今までの店は来店客もスタッフもフレンドリーで、堅苦しい感じがない。スタッフの笑顔も自然だ。「何より、お客様が食事をされている笑顔が素敵だったんです」。

当時の店長のアドバイスも背中を押してくれました。「ここで自分流の接客スタイルをつくればいい。そして目標を持て。店長という目標を」。2015年3月には正社員に、去年10月には晴れの店長に就任。バイトから店長まで約5年。それもこれも、目標を掲げることの大切さに気付いたからこそ。もう迷いはありませんでした。

ダイエットに成功した理由

これまで大阪府下4店舗を経験。ほぼどの職場でも最年少。てっきり可愛がられていたのかと思いきや、「いやあ、色々なことがありました(笑)」。店長補佐として勤めていた店では自身の立場に苦悩し、特定のベテランスタッフと長期にわたってソリが合わず、人生最大の壁に直面。「体調を壊して1週間休んだこともありました」。

相談する人はいなかった?「答がわかっているので、相談しても仕方ないと思ってしました(笑)」。悲壮な孤独感。そのせいもあってか、ウエイトも激ヤセ。きつい業界だとはわかっていたものの、それでも接客は誰にも負けないという自信がありました。

仕事が忙しくなるにつれマネジメント業務が増え、来店客と接する機会も激減。就任先の店舗売り上げが低調で、スタッフのぬるま湯状態をまのあたりにしたことも。「まったく活気がなくて。これは何とかしないといけないと思い」、ミーティングの機会を増やして店独自のキャンペーン企画を通じてスタッフの声を拾い上げたり、手づくりのフライヤーで外商周りをして社会の声に耳を傾けたり。「おかげで、自分に何が足りないかよくわかりました。それがわかったことで、スタッフがよく動いてくれて職場が盛り上がるようになり、売り上げも増えました。何といっても、夏の社内コンテストで全国3位に食い込んだ時は、すっごくうれしかったです」。

来店客と接する機会が減っても、楽しみの見つけかたはある。店の全体が俯瞰できるようになったのも、上にいられる強みだと。「おかげで、充実しすぎて体重も元に戻ってしまいましたけど(笑)」。

◆食べることは幸せなこと

20代前半にして味わってきたさまざまな体験。「結局、働くことって自分のスキルを上げることなんでしょうね。スキルが上がれば、性格も人格も成長する。懐が深くなり、常に相手の立場になって考えられるようになる。これからは女性スタッフにも目を向けて、働きやすい環境をつくっていきたいと思っています」。仕事内容や役職に関係なく。男や女に関係なく。

現在の店に就任したのは今年の9月。席数160、スタッフはホール・キッチン合わせて何と110人の大所帯。売り上げ規模でみても、全国で上位に位置するフラッグシップ店でもあります。「さすがにここではもう最年少ではなくなりましたけど(笑)」。

長年中華料理店のオーナーとして働いていた実父が、今年8月に他界。「昔から厳格な父でしたが、食に関しては別でした。食べたいものがあったら、何でも買ってきてくれてうれしかったです。食べることって、やっぱり幸せなことなんですよね」。食は人を必ず幸せにしてくれる。亡き父の思いを受け継ぎながら、働くスタッフの幸せも視野に入れて多忙な毎日を送っているに違いありません。

(取材・構成/池田厚司)

 

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