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「楽しい時間を提供することが私の仕事なんです。」

2018.03.072018.03.07
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ーーー金子誉之さん 40歳 神奈川県横浜市 株式会社セオリー勤務

「おいしい料理を日本酒でゆっくりといただく…」お酒好きにはたまらない贅沢な空間を提供する〝方舟〟新潟・富山・石川・福井から取り寄せられた日本酒を常に80種類以上取り揃え、和食を中心に郷土料理や新鮮な魚が楽しめます。そんな方舟の桜木町クロスゲート店でマネージャーとして従事されている金子誉之さん「人をもてなす」ことを仕事にしたいと志してから20年、そこには料理とお客様に向き合う誠実な姿がありました。

 

◆おもてなしの原点

小さい頃から人の喜ぶ顔を見るのが好きだったという金子さん、将来は「人をもてなす仕事に就こう」と、漠然と思っていたそうです。そのため、学生時代のアルバイトは飲食業ばかり。商業施設のフードコートでたこ焼きを売ったり、イタリアンレストランでパスタの勉強をしたり。中でも今と同じ和食系の飲食店には、9年勤めました。最初は接客をしたり、厨房で料理などを作っていた金子さん。しかし9年も勤めると、アルバイトの域を超えた仕事も任されるようになりました。棚卸しはもちろん、原価率を考えた発注、時には売り上げに関しての会議にも参加しました。当時は「アルバイトなんだけどなぁ〜(笑)」と思っていた数々の経験が、今はとても役に立っているそうです。

そんな金子さんも30歳を前に心境に変化が現れました。もう一段階上のレベルで接客業をしたいという思い。それには自身の中でアルバイトではなく、就職すると言う意識改革の必要がありました。「美味しい物を食べて、おいしいお酒を飲んで、楽しい時間を過ごしていただきたい……」金子さんが思うおもてなしへ向けて、新たな挑戦が始まりました。

 

◆職人の世界に飛び込んで

本格的に和食の世界に飛び込んだ金子さん、しかし待っていたのは苦労の連続でした。ご飯を炊いたり、カツオの出汁を引いたり、何となくやったことのある作業でしたが、プロのレベルで本格的にとなると、勝手が違いました。中でも包丁さばきには苦労したそうで、魚を下ろしたり、お刺身のつまを作ったり……言ってしまえばそれだけのことが、本当に出来なかったそうです。毎日が修行の連続、ただでさえ30歳という遅い年齢で飛び込んだ世界、焦りもありました。まずは先輩の姿を見て、技術を盗みました。先輩のコピーを目指そう!先輩が捌いた魚か?自分が捌いた魚か?見分けが付かないことは凄いことだと思ったからです。金子さんの熱意に先輩方も、捌く機会を多く与えてくれました。毎日一匹、二匹を丁寧に捌きます。大根の桂剥きで指を切ることも一度や二度ではありません。「包丁の技術は昨日今日で上がるものではないんです……」金子さんははっきりと言います。今もこの先もずっと向き合って、いつか納得出来る技術を身につけたいと。

◆新たなる挑戦

方舟では自社のネットワークにより、産地直送で毎日新鮮な食材が届きます。旬の食材を生かし、新たなメニューを考えるのも金子さんの仕事です。新商品のベースは料理長が考えます。そこに金子さん他スタッフの意見が加わり、試作を重ね商品化されます。「方舟のメニューには、賄いから正式なメニューになったものもあります」もちろん賄いは、有り合わせの食材を使うのが原則ですから、正式なメニューになる時は豚肉を牛肉に代えたり、野菜もより相性のいいものを使います。

しかしこの賄いが、料理人にとってとても大切だと金子さんは言います。「入社してから5年くらい、毎日作っていました」毎日続けることの難しさ。同じ物を作れない大変さ。賄い飯の献立を考えることで、ストレスを感じる時期もありました。料理に対して考える時間も増えます、味付けも中華や和風、洋風とチャレンジして行きます。先輩方には、手厳しい言葉でアドバイスも頂けます。「そして何より、料理の技術が向上するんです」その技術を間近で先輩に見て頂けたことで、新たな仕事を任されステップアップ出来た時は、とても自信になりました。

◆おもてなすということ

金子さんの仕事は多岐にわたります。店舗の管理はもちろんのこと、新人教育やミーティングなど、マネージャーとして様々なことに気を配ります。中でも接客は大切な仕事の一つです。方舟では常に80種類以上もの日本酒を取り揃えています。元々日本酒が好きなこともあってこの世界に飛び込んだという金子さん、お客様にもお料理にあった、お口にあった、お酒をもてなしたいと思っています。日本酒の良いところは味と香り……日本人ならではの奥深さと優しさが感じられます。そして、温度を変えても美味しくいただけるのが魅力です。同じお酒でも冷酒や熱燗、ぬる燗にして様々な表情でいただけます。

金子さんの胸には、常に先輩から受け継いだ教えがあります。「料理人は何でもできなければダメだ」単純な言葉ですが自身の立場や状況によって、とても奥深い言葉だと思っています。お客様のご要望にもっと応えたい、新鮮な食材をもっと活かすために技術を向上させたい。まだまだ満足できるレベルには達していないけど、いずれそんな日を迎えて、最高のおもてなしが出来ればと語る金子さんの表情が印象的でした。

(取材・構成 内藤英一)

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